ぴっかりカフェの予防効果に関する仮説(後編)
前編からちょっと時間がかかってしまいましたが、ぴっかりカフェの予防効果に関する後編です。
高校での予防的取り組みに関して、前編では書きました。
(ぴっかりカフェとは何かも含めて、前編をご覧ください)
後編のこちらでは、ぴっかりカフェの多層的な予防効果について、前編の整理の元で書いていきたいと思います。
(1)ぴっかりカフェの一次予防効果
一次予防の効果です。一次予防は現在課題を抱えていない生徒を、そのままに保つことに狙いを定める予防活動です。
ぴっかりカフェの活動の中では、いくつかこれに該当する取り組みがあります。
一つは、カフェをきっかけに図書館に行くという行動が生まれること。
こうした文化的な行動パターンを身につけておくことは、将来身を助けます。困窮世帯で育った子どもたちは、本を読むという習慣に乏しいです。文化的な環境に乏しい中で育ってきているので、知識を蓄える、困ったら調べるなどの行動パターンを持っていません。
また、困窮世帯の子どもたちでなくとも、ケータイ・スマホ世代の今の高校生。ネットもいいけど、書物に親しんでおくことも大切です。
つまり、ぴっかりカフェには文化的資本を強化し、将来に備える効果があると言えます。
二つ目は、地域の人たちがボランティアできてくれていますので、良い大人に出会い、つながる人的資源の強化です。
写真は、定例で月に1回来てくれている地元青葉区のスペースナナのみなさん。
貧困問題の本質の一つは社会的孤立です。孤立しているからこそ、何かあった際に助けてくれる人もおらず、あるいは助けてもらえるという発想すらできず、どうにもできずより困難な状況に陥っていきます。
また、若者問題の一つの本質も他世代からの孤立です。ぴっかりカフェは、大人と生徒たちが一緒に楽しんでいます。こうした自然に心地の良い中で強化される人的資源にも、予防効果の一つがあると思います。
特に、最近の注目したいのは、卒業生ボランティアです。卒業生は現役生にとっては身近なロールモデルとして機能しますし、また卒業生にとってもここに来れば先生たちはもちろん、地域の大人たちとも出会える場所になっていて、人的資源とつながり続ける一つの仕掛けになっています。
三つ目は、将来に向けて知っておきたい知識を知る機会を得ることです。
写真は結婚・妊娠・出産について女子生徒たちと話すトークイベント。困窮世帯の生徒たちは妊娠・出産が早い傾向があり、順調にいっていた学校生活や卒後の職業生活も妊娠で事態一転、ということがよくあります。高校生の今からこれらについて考えたり、いざという時必要な社会資源の情報、こうしたことを元にライフプランを考えたり…そんな時間でした。今後も、必要なテーマについて知ってもらう機会を作っていきたいと思います。
四つ目は、生徒それぞれの活躍の場があること。ぴっかりカフェは生徒さんたちの活躍の場面が用意されており、それによって自己肯定感が持てる時間を過ごしてもらえるのかな、と思っています。
写真は、ドイツからの視察団を「おもてなし」する茶道部の生徒さん。
そして料理上手な生徒さんが差し入れしてくれたクッキー。
こうした仕掛けは、困窮世帯の子どもたちの集まる課題集中校だけではなく、若者全体にリスクが蔓延している現在では、全ての学校にあっても良い予防機能なのではないかと思います。
(2)ぴっかりカフェの二次予防効果
二次予防は早期発見です。早期に発見して、困難が大きくならないように働きかけていく機能です。
ぴっかりカフェの一番の効果は、この二次予防にあると言っていいと思います。
10代の若者たちは、自分の抱えている違和感を言葉にしたり、相談したいことを明確にして相談機関を訪れるということは、ほとんどありません。自分自身でも、何にどう困っているのかわからないし、そもそも困っているのかわからないけれど、なんか嫌な感じがする、なんか嫌だ、そんな感覚を持っていることが多いと思います。また、自分が持っている違和感が解決可能だったり、誰かに相談するとどうにかなるものだという発想も、誰かにSOSを出すという行動パターンももっていないことも多くあります。
もっと問題がはっきりしてくれば、もっと言葉になっていくことも多いかと思いますが、「早期に発見」しようと思うと、そんな言葉にならない違和感の段階で、相談しようとも思っていない状況で、何気ない会話の中で、その違和感や嫌な感じをキャッチする必要があります。
それがぴっかりカフェという場が機能するのです。
写真は常連の子の様子。ぴっかりカフェに遊びに来ている中で、少しずつ色んなことを話しています。
改まって話そうと思っていたわけではないんだけど、すぐには言えないけれど、先生には言えないけれど、ぴっかりカフェで地域の大人と何気ない会話から、気づいたら話せてた、あるいは大人の方が「あれ」って気づいて「それって相談していいことだよ」「それってなんとか変えられるかもしれないことだよ」そんなメッセージを伝えられる場になります。
そこで、相談が始まれば、個別対応も含めて支援をスタートすることができます。
(3)ぴっかりカフェの三次予防効果
三次予防は問題が重篤化してしまった生徒に対して、これ以上問題が大きくならないよう働きかけていく活動です。
既に問題が顕在化して、結構大変な状況になっている生徒でも、地域の相談機関はおろか、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーになかなか繋がらないケースがあります。どんな大人が出てくるか、どんな場所かわかりませんし、「自分には相談なんか必要ないのだ」「自分一人で頑張れるんだ」と思っている生徒もいるかもしれません。ぴっかりカフェなら、様子も顔もわかっていますし、「相談」とかしこまらずに話が始められますので、相談へのハードルは随分下がってくるのではないでしょうか
ただ、みんながいる場所なので、込み入った相談をしたい生徒さんは、少し話し始めたら、別の相談室を用意してお話をじっくり聴く、などの対応が必要です。
実際、多くの学校は一次予防、二次予防の前に三次予防として地域資源やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーにつなげることもなかなか出来ていないことも多いのではないかと思います。ぴっかりカフェのような取り組みが始まり、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーも一緒にそのカフェにいるようになれば、ぴっかりカフェが三次予防のプラットフォームになりうるのではないでしょうか?
「学校をプラットフォームに」という時には一般的には三次予防のプラットフォームをイメージしているのだと思います。しかし、こうして見てみると、ぴっかりカフェは3つの予防それぞれに必要な資源が集まるもっと広い意味でのプラットフォームとして効果を発揮しており、貧困世帯の子どもたちのように自分や家庭から自主的に資源にアクセスできない世帯の子どもたちにもそれらを届けられるアウトリーチ機能を有しているのだと思います。
さて、次の機会には、こうした各予防効果をどう評価するのか(つまりこれらの仮説をどう検証するのか?)、その点について考えてみたいと思いますが、ひとまず「予防効果について仮説」前後編を終了としたいと思います。